前回は、リソース不足という物理的な壁に直面し、会社という枠組みを超えて「プロフェッショナルな個人」とつながることで道を切り拓いた話(第5回)をしました。
「仕事を依頼する側」と「受ける側」。
会社員時代の常識で言えば、それは契約に基づいたドライな関係であり、プロジェクトが終わればそこまでの関係だったかもしれません。しかし、看板を下ろして「個」として向き合う中で、その関係性は私の予想を超えた形へと進化していきました。
今回は、仕事のつながりが「人生の仲間」へと変わった、起業1年目の忘れられない2つの出来事についてお話しします。
「部下」ではなく「同志」として──廣澤さんの起業への挑戦
第5回で触れた、リモートで私の事業を支えてくれているメンバーの一人、廣澤さん。
彼女は非常に優秀で、私の曖昧な指示もしっかりと形にしてくれる頼もしい存在です。ある日の打ち合わせの雑談で、彼女がふと口にしました。
「実は私、いつか自分で事業を立ち上げたいと思っているんです」
会社員時代の管理職としての私なら、「それは素晴らしいね」と言いつつも、
心の中では「まずは今の業務に集中してほしい」と、自部門のリソースとしての最適化を優先していたかもしれません。しかし、今の私は違いました。
「それなら、まずコンテストなどに出て知名度を上げつつ補助金を獲得しましょうよ」
その言葉が自然と口をついて出たのです。
私自身が起業という荒波に飛び込み、挑戦することの尊さと苦しさを知っているからこそ、彼女の想いを他人事として聞き流すことはできませんでした。
私たちはすぐに地元のビジネスコンテストを探しました。
彼女が描く事業プランに対し、私がコンサルタントとしての視点でアドバイスする。
コンテストの審査員経験を生かして、コンテストは喋りのうまさではなく、自分の事業に対する思い、気持ちが評価される。だから、その部分をしっかり伝えられれば大丈夫。

そこにはもう、「発注者と受注者」という上下関係はありませんでした。
お互いの夢を応援し合う、フラットな「同志」としての時間が流れていました。
そして迎えた本番。彼女は見事にSetouchi-Baseのプレゼンテーションをやり遂げ、準グランプリを獲得しました。
現在、彼女は自身の事業立ち上げに向けて奔走しています。そして同時に、変わらず私の会社の仕事も手伝ってくれています。「辻村さんの仕事を手伝うことが、自分の経営の勉強にもなりますから」と。
誰かの管理下で働くのではなく、それぞれの夢を持ちながら、必要な時に力を貸し合う。そんな新しい「働き方の形」が、ここにはありました。
「実は、父が…」時を超えてつながった祭り
もう一つ、私の心を震わせた出来事があります。
独立して最初の年にご支援させていただいた、あるクライアント企業の社員の方と、プロジェクト終了後に飲みに行ったときのことです。
私のオフィスがある台東区・上野界隈は、5月になると「三社祭」の熱気に包まれます。お酒の勢いもあり、私は彼にこう言いました。
「来年の三社祭、もしよかったら担ぎに来ませんか?」
ビジネスの場での「今度飲みましょう」と同じで、その場の社交辞令で終わってもおかしくない会話です。
しかし翌年の5月、彼は本当にやってきました。しかも、6人もの仲間を引き連れて。

揃いの半纏(はんてん)を纏い、汗だくになって一緒に神輿を担ぐ。肩と肩がぶつかり合い、「セイヤ、ソイヤ」と声を枯らす。そこには、かつての「コンサルタントとクライアント」という垣根は微塵もありませんでした。
そして、休憩中に彼がふと漏らした言葉に、私は耳を疑いました。
「実は私の父は、石川県加賀市中山温泉で、獅子を担ぐお祭りを企画した人間なんです」
彼は、祭りの熱気で紅潮した顔で続けました。
「父が地元のおみこしを立ち上げるときに、まさにこの浅草の三社祭に来て、いろいろ教わって帰ったそうです。それを地元のお祭りに活かしたんですよ。……そして数十年経って、今回は息子の私がここに来ました!」
その言葉を聞いた瞬間、鳥肌が立ちました。私のお祭の仲間も「そんなことあるの!」と皆びっくり!お父様がかつて学びに来たこの場所に、今、息子さんが仕事の縁で導かれてやってきている。
もし私が独立していなければ、そして石川県の工場で仕事を一緒にしなければ、彼と出会うことはなかったでしょう。さらに「一緒に担ぎませんか」と声をかけていなければ、この事実は埋もれたままだったでしょう。
仕事というきっかけがなければ決して交わらなかった人生が、時を超えてここでつながった。
「出会いって、本当に不思議だな」
神輿の重みで痛む肩をさすりながら、私はただただ、その縁の深さに圧倒されていました。
「効率」を手放した先にある豊かさ
会社員時代、私は常に効率(スピード・品質・コスト)を求めていました。
組織の目標達成のために、リソースをどう配分し、どう効率的に動かすか。
人間関係さえも、業務遂行のための「機能」として見ていた部分があったかもしれません。
しかし、起業して「効率」という鎧を脱いだとき、残ったのは生身の人間同士のつながりでした。
廣澤さんの夢を応援することは、私の会社の短期的な利益にはならないかもしれません。
クライアントと神輿を担ぐことは、契約書にはどこにも書かれていません。
けれど、こうした「非効率」で「無駄」に見える時間こそが、
孤独だった私の起業生活を彩り、支えてくれているのです。
仕事が終われば切れる関係ではなく、仕事を通じて出会い、人生を共に楽しむ関係へ。
「ああ、起業してよかったな」
祭りの後の心地よい疲労感の中で、心からそう「味わう」ことができた瞬間でした。
次回予告
ここまで、起業への想い、お金の苦労、孤独、そして人とのつながりについてお話ししてきました。
さて、マインドセットが整ってきたところで、次回からは具体的な「動き出し方」のフェーズに入ります。
大きな資本も実績もない中で、どうやって仕事を作っていくのか?
次回は、「小さく始めて、大きく育てる──スモールスタート思考」をテーマに、リスクを抑えながら最初の一歩を踏み出すための思考法をお届けします。
【読者の皆様へ:今回の問い】
仕事の役割や肩書きを外したとき、あなたには「この人と一緒に何かをしたい」「一緒に笑い合いたい」と思える仕事仲間がいますか?
もし今、頭に浮かんだ顔があれば、その人を大切にしてください。そのつながりが、いつかあなたの人生の新しい扉を開く鍵になるかもしれません。
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辻村裕寛(つじむらやすひろ)代表取締役兼CEO
IT系ベンチャー企業、SIer、コンサルティングファームを経て独立起業。現在は、働きがいと豊かさで次世代が夢を描ける社会を創るをMissonに、企業業と働く人々へのコンサルティングで持続的な変革を支援し新しい価値を創造ことをvisionに掲げ活動しております。お客様には①「変化を見抜き価値を創る」コンサルティング、②「学びで育む次世代の成長」を支える研修講、③「知恵を届け未来を動かす」執筆サービスを価値としてお届けしております。




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