前回、私は「孤独」という静かなる敵と向き合い、名刺の山ではなく「深さ」のあるつながり、そして「Giveから始める」覚悟についてお話ししました。
売上ゼロの崖っぷちを乗り越えるため、がむしゃらに動き続けた結果、ありがたいことに少しずつ仕事のご相談が増え始めました。第3回であれほど空っぽだったスケジュール帳が、今度は逆に埋まっていく。それは、まさに「嬉しい悲鳴」でした。
しかし、その安堵も束の間、私はすぐに新たな、そして非常に現実的な壁にぶつかることになります。
「あ、これ、物理的に終わらない…」
睡眠時間を削ってもタスクリストは終わらず、ありがたい反面、このままでは品質を落としてしまうかもしれない。そんな焦りだけが募っていきました。
リソースが、圧倒的に足りないのです。
会社員時代の「当たり前」が通用しない壁
会社員時代、特に管理職だった頃は、リソースの調整も仕事のうちでした。
プロジェクトが炎上しかければ、上司に掛け合い「増員」を要請する。
あるいは、他部署から一時的に人手を借りる。
そこには「会社」という巨大なリソースプールがありました。
しかし、独立した今、リソースは「私一人」です。
このまま一人で抱え続ければ、いずれパンクしてしまう。
自分のキャパシティが、そのまま事業の限界になってしまう──。
第4回で向き合った『孤独』という内的な葛藤とは“また質の違う”、『物理的な限界』という“待ったなしの”プレッシャーが重くのしかかってきました。
「どうする?」「このチャンスを、みすみす逃すのか?」
人を雇う? いや、まだ固定費を抱える覚悟も体力もない。 外注する? でも、誰に? どうやって?
「部下」や「同僚」という枠組みが、いかに「当たり前」のようで、ありがたい仕組みだったか。それを、またしても痛感させられました。
「社会全体がパートナー」という気づきを、行動へ
第4回の終わり、私は「社会全体が協業できるパートナーの宝庫だ」と気づきました。
待っていても何も始まらない。とはいえ、人脈も限られています。
そこで、いくつかの人材紹介サービスに登録しました。
実はそのうちの一社は、担当の方の熱意が非常に高く、最初は何度も電話をお断りしていました。
ですが、改めてお話を伺うと、まさにリソースのない今の自分にぴったりだと気づかされたのです。
しかし、そこにはまだ拭えない不安がありました。
「起業したての、実績も曖昧な個人事業に、果たして優秀な人が集まってくれるのだろうか?」
そこで出会ったのは、私の想像をはるかに超える方々でした。
- お子さんの事情で、日中は家にいないといけない、限られた時間しか働けない。でも、楽しく働く姿を子供に見せたいというママさん。
- 自分のやりたいこと(事業立ち上げ)のために、あえて就職せず、在宅ワークでスキルを磨こうとする四国にお住いの方。
- そして、こうしたサービス経由とは別に、前職のつながりの方から、海外へ移住したかつての職場の同僚も「仕事をしたい」と声をかけてくれました。昨今の円安で生活設計の微調整が必要だということでした。
今では、こうした背景を持つ5人のメンバーが、私の事業をリモートで支えてくれています。
「制約」が教えてくれた、本当のプロ意識
もちろん、最初からスムーズだったわけではありません。
皆さん、働ける時間も曜日もバラバラです。
会社員時代のように「朝9時から夕方5時まで」という前提は、一切通用しません。
最初は戸惑いました。「このタスク、この細切れの時間で本当に終わるのだろうか?」と。
しかし、3つのルールを意識したコミュニケーションを心がけ、
一つひとつの仕事の背景や目的を丁寧に共有し、時間をかけて関係性を築いていきました。
- 背景共有:成果物の目的・使い手・評価基準を明確化
- 役割と責任:お願いするタスクを明確化してどこまでの完成度を求めるか明確化
- 見える化:Notionでタスクと活動状況を見える化
数週間後、見違えるような「高品質なスライド」になって戻ってきたのです。
ある時。 私が「たたき台」レベルでお願いしたプレゼン資料が下記の形で出来上がり、とても驚きました。


会社員時代の私が持っていた「フルタイムで働く人=優秀なリソース」という固定観念が、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じました。
彼女たち、彼たちは、「制約」があるからこそ、その限られた時間の中で最大限のパフォーマンスを発揮しようとする、強烈なプロ意識を持っていました。会社という組織に属せずとも、あるいは属せない事情があっても、社会とつながり、価値を生み出したいという熱意に溢れていたのです。
こうした『制約』を持つプロフェッショナルな仲間たちと協業し、皆で作成した提案書で無事受注できた日。そして先日、香川のメンバーが上京するタイミングで、お祝いと感謝の会を浅草で開いたときの写真です。

私は、この国に、まだ光が当たっていない、とんでもない「潜在能力」が眠っていることを知りました。
「リソースが足りない」という私の悩みは、見方を変えれば、こうした素晴らしい才能と出会うための「必然」だったのかもしれません。
「(自分一人が)どうにかする」という孤独な覚悟から、「(仲間を信じて)共にどうにかする」という、新しいステージへ。 私の起業1年目は、ようやく本当の意味での「仲間」を得て、次のフェーズへと進み始めたのです。
【読者の皆様へ:「今回の問い」】
会社員時代には、多くの「当たり前」に守られています。場所、時間、そして「同僚」という存在。 もし今、あなたがその「当たり前」の外に出るとしたら──。
「あなたは、自分の“当たり前”の枠の外にいる才能を、どうやって見つけ、どう手を伸ばしますか?」
もしよければ、コメント欄やFacebook、Instagram(#52歳のリアル)で、あなたの考えを聞かせてください。
次回予告
仕事から『仲間』へ、そして『地域』へ。そうして広がっていく『輪』のリアルについて、お話ししようと思います。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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辻村裕寛(つじむらやすひろ)代表取締役兼CEO
IT系ベンチャー企業、SIer、コンサルティングファームを経て独立起業。現在は、働きがいと豊かさで次世代が夢を描ける社会を創るをMissonに、企業業と働く人々へのコンサルティングで持続的な変革を支援し新しい価値を創造ことをvisionに掲げ活動しております。お客様には①「変化を見抜き価値を創る」コンサルティング、②「学びで育む次世代の成長」を支える研修講、③「知恵を届け未来を動かす」執筆サービスを価値としてお届けしております。
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