起業して最初にぶつかった“お金の壁”とは?
起業して初めて、「お金の流れ」にこんなにも心を振り回されるとは思ってもみませんでした。
それまで私は、前職でも「キャッシュフローコンバージョンの改善」、
「小規模事業者には資金繰り重視」、「キャッシュフローが大事」という言葉を使っていました。
しかし、その重さは“知っているつもり”でした。
コンサルタントとして、あるいは中小企業診断士として、
クライアントには「キャッシュフローが命です」と言っていた自分が、
まさかこんな形でその意味を“体感”することになるとは──。
では、資本金350万円で始めた私は、どこで“読み”を誤ったのでしょうか?
法人を設立したのは2023年5月。資本金は350万円。
「まあ、4ヶ月くらいは仕事がなくてもなんとかなるだろう」──そう見積もってのスタートでした。
当初は、大型案件が法人化前の4月から始まる予定で、その準備として動いていました。
ところが、蓋を開けてみれば話が進まず、開始時期はどんどん後ろ倒しに。
始まったと思ったら、お客様予算の都合で予定がまるっと空白になり、
キャッシュはみるみるうちに減っていきました。
あっという間に残高が半分以下。「これはまずい」と、
専門家登録していた診断士派遣制度や、自治体の理論研修など、手当たり次第に案件に応募。
なんとか数件はこなせたものの、いわば“焼け石に水”。
収入と支出のバランスは、まるで合わないまま時間だけが過ぎていきました。
自ら切り拓く覚悟とは何か?
このとき強く思い知らされたのは、「受注のチャネルは複数必要」ということ。
そしてもう一つ、「自分で仕事を取りに行く」という覚悟。
前職を退職した時点で、「もう自分にはこの道しかない」と覚悟を決めて法人化した私にとって──
あっという間に終わりを迎えるのはあまりにも不甲斐ない
やれるところまでやる、藁にもしがみ付いてやる
あがきながらでも、一歩ずつ前に進むしかない。そんな覚悟がじわじわと育っていきました。
一人になると、自分がやるしかないので、覚悟の深まりも感じました。
「どこまで仕事を選ぶべきか?」
「専門性を貫くべきか、それとも“雑食”で動くべきか──?」
営業活動をすれば何かが変わる──そう思って動き始めたものの、現実は甘くありません。
営業をしたからといって、すぐに契約になるわけではなく、
実際にお金が入ってくるのは数ヶ月先。
法人のキャッシュは毎月じりじりと減り続け、
ついに「このままでは資金ショートするかもしれない」という危機感が現実味を帯びてきました。
資金ショートの危機、どう乗り越えた?
そんな中で初めて、信用金庫に運転資金の融資を相談することにしました。
事業計画を練り直し、キャッシュフロー表もつけて提出。
昔取って杵柄で事業計画の見栄えはOKですがプロパー融資(金融機関が保証人なしで貸す融資)は取れるはずもなく
日本政策金融公庫の信用保証付き融資しか選択肢がない。
加えて、その時点でのお客様との契約書などを重箱の隅をつつくようにチェックされ
使用用途も細かくみられ、当初規模額まで認可されませんでした。
保証協会の審査は想像以上に厳しく、元大企業グループ勤務なんて全く関係なく
「新設法人・実績なし」という事実の重さを改めて思い知らされました。
それでも融資を得られたことで、なんとか2024年を無事に乗り切る目処が立ちました。
──と、思っていたのですが。
年末、最大の危機が訪れる
年末、想定外の出来事が起こりました。
12月末に入金予定だった報酬が、振り込まれなかったのです。
請求書には「12/28支払い」と明記していたし、先方とも事前に合意していた内容でした。
慌てて連絡すると、「元請けから入金がないので支払えない」との返答。
年末年始の銀行休業を前に、急に資金が止まったのです。
家では、「正月のお金、どうする?」と家族であたふた。
家族には「大みそか恒例のすき焼きは金が入金されてから?」と、言い訳しながら乗り切りました。
結局、年末の銀行稼働日最終日に無事に入金があり、
極貧のお正月は回避できました。
でも、身に染みて分かりました。
小さな会社が大手と取引をする際には、
単に金額や条件だけでなく、支払いサイトや取引経路にも注意が必要だということを──。
サラリーマン時代はいわゆる手続きで済んでいたことが
独立したとたんに命綱になる重要な手続きになりました。
「キャッシュフローが命」──言葉の意味を、ようやく知る
この一連の経験は、私の中で強烈な学びとなりました。
「キャッシュフローが命」
「法人は資本金0円でも作れるが、資金繰りに詰まればすぐに止まる」
「“お金の出口”より“入り口の確保”が先」
──これまで何度も講演や研修で口にしてきたフレーズの数々が、ようやく腹落ちしたのです。
大企業の中にいると、財務や経理は“別部署”の仕事になります。
月末にお給料がきちんと振り込まれる安心感。
売上の回収が多少遅れても、会社全体でバッファを持っているという余裕。
でも、独立して最初の1年は、そんな“安心の仕組み”が一切ありません。
全部、自分で手配して、リスクも自分でかぶる。
それが、経営者であり、法人を運営するということなんだ──。
読者へのひとこと
もし、あなたがこれから法人を立ち上げようとしているなら、
最初の半年間は「お金がまったく入らなくても大丈夫」なくらいの準備があると、心の余裕が生まれます。
それだけ備えたなら、あとは「どうにかする」だけ。
私も、ひたすら動き、声をかけ続け、ネットワークを築くことで道が開けました。
「迷っても、止まらなければ道は開ける」──そんな想いを、今あらためて実感しています。もしあなたも、少しでも不安を感じているなら。焦らず、でも止まらず。自分のペースで、進んでみてください。
次回予告
次回は、起業してすぐにぶつかった“思い通りにいかない現実”と、
それでも動き続けた先に見えてきた小さな突破口についてお話しします。
成功も失敗も、結局はすべて自分の行動しだい──
そんな実感を得たエピソードを、リアルに綴ってみたいと思います。
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辻村裕寛(つじむらやすひろ)代表取締役兼CEO
IT系ベンチャー企業、SIer、コンサルティングファームを経て独立起業。現在は、働きがいと豊かさで次世代が夢を描ける社会を創るをMissonに、企業業と働く人々へのコンサルティングで持続的な変革を支援し新しい価値を創造ことをvisionに掲げ活動しております。お客様には①「変化を見抜き価値を創る」コンサルティング、②「学びで育む次世代の成長」を支える研修講、③「知恵を届け未来を動かす」執筆サービスを価値としてお届けしております。