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昔の名刺、新しいSNS──人脈ゼロから仕事をつくった試行錯誤

動きながら作る、と決めた。でも、何から動けばいい?

前回、私は事業計画書を「削除」しました。

完璧な計画より、目の前の一歩を動くことを選んだ。そう覚悟を決めたのです。

しかし、決意と現実の間には、大きな壁がありました。

「動く、と言っても……何をすれば仕事になるのか?」

会社員時代、営業活動は「会社の商品と実績」を売ることでした。しかし今は、売るのは「自分」です。そのやり方が、まるでわからなかったのです。

昔の人脈に連絡する、その前の「一晩の迷い」

まず試みたのは、かつての人脈への連絡でした。

在職中に名刺交換した相手、プロジェクトを共にした仲間。スマートフォンの連絡先を見れば、数百件の名前が並んでいます。しかし、指が止まりました。

「こちらの都合で連絡するのは、迷惑じゃないか」
「独立した途端に仕事を頼むのは、虫が良すぎないか」

そんな逡巡が、何時間も頭をぐるぐると回り続けました。一晩かかって、ようやく出した結論は、シンプルなものでした。

「起業の挨拶として送ればいい。売り込みじゃなく、近況報告として。」

そこで、在職中に名刺交換した方全員に、起業の挨拶メールを送ることにしました。文面は長くしませんでした。何をやるのか、なぜ独立したのか。それだけを、正直に書きました。

返信してくれた人が、教えてくれたこと

結果として、返信が来たのは全体の2割ほどでした。

しかし、その2割の方々の反応が、私の視野を大きく広げてくれました。「応援しているよ」という励ましの言葉。「こんな仕事、辻村さんに合いそうだけどどう?」という、思いがけない紹介。「実は我が社も課題を抱えていて」という、具体的な相談。

なかでも印象的だったのは、かつて同じプロジェクトを戦い抜いた、ある製造業の方からの連絡でした。「辻村さんなら、うちの現場の悩みをわかってくれると思って」という一言とともに、打ち合わせの打診が来たのです。

そこで改めて気づいたことがあります。昔の人脈が「資産」になるのは、肩書きのある名刺を持っていたからではない。一緒に苦労した記憶と、そこで見せた姿勢があってこそなのだと。

会社の看板は消えました。でも、その人が「辻村という人間をどう見ていたか」は、消えていなかったのです。

SNSという、ゼロから始める「新しい海」

一方で、昔の人脈だけに頼ることの限界も、すぐに感じました。

過去のつながりは「再会」でした。しかし、事業を続けるためには「新しい出会い」が不可欠でした。そこで動き始めたのが、SNSと各種コミュニティです。

正直に言えば、最初はとても抵抗がありました。

「LinkedInやXで発信しても、誰も読まないだろう」
「いいね数が少なかったら恥ずかしい」

そんな感情が邪魔をしました。それでも、とにかく投稿を始めました。「今日、こんな仕事をした」「起業してこんなことが難しかった」。小さな気づきを、飾らない言葉で書き続けたのです。

「量より深さ」──フォロワー数より大切なもの

数ヶ月続けると、少しずつ変化が現れました。

フォロワーが急増したわけではありません。しかし、「投稿を見て気になりました」と連絡をくれる方が、ちらほら現れ始めたのです。その数は少なかった。しかし、興味を持って連絡してくれる方の「質」が、まったく違いました。

交流会で名刺を百枚交換するより、共感して連絡してくれる一人の方が、ずっと深い関係につながる。第4回でお話しした「孤独の時期」に痛感したことが、ここで改めて証明されました。

量ではなく、深さ。広げるのではなく、育てる。それが、発信を続ける中で体得したルールでした。

「Give先行」が、回り回って仕事になった

人脈開拓で、もう一つ大切だと感じたことがあります。それは、「もらう前に与える」という姿勢でした。

知人から「ちょっと相談に乗ってほしい」と声がかかれば、たとえ直接の仕事にならなくても、全力で時間を使いました。無料の壁打ち相手として、自分の知見をできる限り提供しました。

最初は「これでは食べていけない」と焦ることもありました。しかし、Give先行で動いた相手から、数ヶ月後に「あなたを信頼できると思って」と、正式な仕事の依頼が来たことが、何度もあったのです。

「まず何かを差し出す人間かどうか」を、相手は静かに見ていました。小さな組織や個人で信頼を積み重ねるのに、これほど確実な方法はないと、今でも思っています。

道は「つくる」ものではなく「歩いてできる」もの

正直に言えば、「これが正解の営業方法だ」という答えは、いまでも出ていません。

昔の人脈が動いてくれる時もあれば、SNSで見知らぬ方から仕事が来る時もある。紹介がつながる時もあれば、自分から売り込んで空振りする時もある。

それでも振り返ると、動いた分だけ何かが起きました。止まっていれば、何も起きませんでした。

「昔の人脈」と「新しいつながり」は、どちらが優れているわけではありません。それぞれの特性を理解して、両方を使い続けること。それが、看板のない一人の人間が仕事をつくる唯一の方法だと気づいたのです。

会社という組織を離れてはじめて見えた景色は、「自分の信用だけが資産である」という、シンプルで重い現実でした。しかし同時に、それは「自分で積み上げられる資産でもある」ということでした。

【読者の皆様へ:今回の問い】

もしあなたが今、独立を考えているなら、まず一つだけ試してほしいことがあります。

過去に名刺交換した方の中に、今も心に残っている人はいますか?

売り込みではなく、「最近こんなことを考えている」と、ただ近況を伝える一通のメールを送ってみてください。返信がなくても大丈夫です。でも、届いたメールが予想外の扉を開けることが、本当にあります。

行動の量が、未来の可能性の量になる。起業1年目に、私が体で覚えたことです。

もしよければ、コメント欄FacebookInstagram(#52歳のリアル)で、あなたの考えを聞かせてください。

次回予告

動き始めた私が次にぶつかった壁は、「発信」でした。

ホームページを作り、メルマガを始め、SNSを続ける。しかし、届けたい人に届いているのか。やっているのに反応がない。そんな焦りと向き合った時期を振り返ります。

次回は【第9回】「発信しない人は見つけてもらえない──SNSの力と恐れの乗り越え方」をお届けします。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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辻村裕寛(つじむらやすひろ)代表取締役兼CEO

IT系ベンチャー企業、SIer、コンサルティングファームを経て独立起業。現在は、働きがいと豊かさで次世代が夢を描ける社会を創るをMissionに、企業と働く人々へのコンサルティングを通じて持続的な変革を支援しています。お客様には
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