「ご所属は?」
起業1年目のある日、初めて“個人名だけの名刺”を出したとき、それまでとは相手の対応がどこか違うことに気がつきました。
これまでは、日立という誰もが知るブランドの名刺を持ち、
コンサルタントとして数々のプロジェクトを推進してきました。
名刺には「ディレクター」という肩書きもあり、それだけである種の信頼を得られていたのだと思います。
しかし、独立と同時に、その看板はなくなりました。
手元に残ったのは、「辻村裕寛」という名前だけが印刷された、たった1枚の名刺です。

看板がなくなった瞬間、自分の中に生まれた「問い」
会社員時代には、正直“会社の名前”に助けられていた部分が多かったと思います。
その後ろに隠れていても、相手のほうから「以前ご一緒しましたよね」と声をかけていただいたり、
「一度仕事をご一緒してみたい」と関係づくりを望んでもらえることも少なくありませんでした。
けれど、独立すれば、その“後ろ盾”はもうありません。
「辻村さんは、何ができる人なんですか?」
この問いに、真正面から答えるには、覚悟と自分の言葉が必要でした。
私は、この問いと逃げずに向き合うことになったのです。
「信頼は、肩書きではなく姿勢から」──法人化という選択
そんなタイミングで、たまたま会食の席で声をかけてくださった方がいました。
かつて日立時代に一緒にプロジェクトを推進した、株式会社テクノアの山崎社長です。
その方は、会社の立場を越えて、私個人の仕事ぶりや姿勢を見ていてくださった方でした。
「辻村さんなら紹介できる」と、別の会社の大きなプロジェクトをご紹介くださったときは、
ただただありがたくて、言葉が出ませんでした。
その信頼に少しでも応えたいと思い、私は個人事業から、
法人である「株式会社ネクサライズコンサルティング」へと形を整える決断をしました。
事業として何かが劇的に変わったわけではありません。
それでも、「きちんとした形にしている」という安心感につながれば、それだけで意味があると思ったのです。
そして何より、これで中途半端な気持ちでは動けない。自分自身へのプレッシャーにもなりました。

株式会社テクノア 様
縁のあった企業様へ感動サービスを提供/ ITで中小企業様を元気にする。本当に素敵な企業様です。私が独立する時もご縁を繋いでいただき、I-OTAでも個人でもお世話になりっぱなし。さまざまな業種・中小製造業の強い味方です。
社名「ネクサライズ」に込めた願い
社名は、自分自身で考え抜きました。
なかなか決まらず、いくつもアイデアを書き出しては、消してを繰り返しました。
思い返すと、会社員時代に最も心を動かされたのは、
お客様の会社が変化を乗り越え、次のステージへ一歩踏み出す瞬間に立ち会えたときでした。
その時間こそが、私にとって何よりのやりがいだったのです。
「人と会社が“次に上がる”お手伝いをしたい」
その想いから、「Next」+「Rise」で”ネクサライズ”(NXRIS)コンサルティングという社名を決めました。
たった6文字ですが、これからの自分の指針となる言葉になりました。
ロゴに込めた矢印──一歩上を目指す気持ち
社名をどう伝えるか──それを考えたとき、言葉だけでは足りないと感じました。
そこで、中小企業診断士の同期が経営するデザイン会社であるTenCyの高仲社長に相談し、ロゴを一緒に作っていただきました。
完成したロゴには、「N」の文字を右上に突き抜ける矢印が象徴的に描かれています。
「今より少しでも前へ、上へ」と目指す姿を、静かに、けれど力強く表してくれるロゴです。気持ちを読み取るために何度も対話を重ね、フォント、文字幅、色合い、レイアウトまで細かく調整し、
ようやくできあがったロゴを初めて名刺に印刷したとき──それは、うれしさと同時に、覚悟の瞬間でもありました。
「仕事って、こういうことなんだ」──そう感じた、これまでにない感覚がありました。正直なところ、当時はまだ、事業の見通しもついていませんでした。
それでも、このロゴ入りの名刺を手にしたとき、「よし、やってみよう」と心が動いたのを覚えています。

Tency株式会社 様
クリエイティブな人材とIT・デジタル技術のスキルを結集して、ワクワク楽しくなるような価値を創造し、企業の成長を応援してくれる会社です。弊社ロゴ、名刺を作成いただきました。

偶然と決意で必然に
私の起業は、本当に多くの“偶然”に恵まれていたと思います。
紹介してくださる方がいたり、厳しいフィードバックをくださる方がいたり。
売り物すら定まっていなかった頃、中学時代の友人が営む会社にお邪魔して、
「これ、売れると思う?」と真剣に相談に乗ってもらったこともありました。
そんな数々の出会いや出来事の掛け合わせが、少しずつ今の形をつくってくれたように感じています。
とはいえ、大事なことはやはり一つ──
耳を傾け、自分から動き、まだ決まっていなくても前に進んでみること。
その積み重ねが、偶然を必然に変えていくのだと、今は実感しています。
「肩書きの向こう側」にあるもの
会社名や肩書きがなくなったとき、人は誰に戻るのか。
私はそこで、自分自身の“原点”に戻れたような気がしました。
社名もロゴも、自分を勇気づける旗印。
起業とは、そうした旗を掲げて、一歩一歩、確かめながら歩く旅のようなものです。
不安がないわけではありません。
でも、自分の言葉で語り、自分の意思で動く──それができる今が、とても楽しく感じます。
「この起業1年目を振り返って強く感じるのは、“動くこと”の大切さです。
次回予告
次回は、起業1年目の最大のプレッシャーともいえる「キャッシュフローの不安」に迫ります。
請求書は出した、でも入金はない──。
そんな12月の月末、正月をどうやって過ごすのか?
ひやひやしながら過ごし、スプレッドシートとにらめっこし続けたリアルをお届けします。
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辻村裕寛(つじむらやすひろ)代表取締役兼CEO
IT系ベンチャー企業、SIer、コンサルティングファームを経て独立起業。現在は、働きがいと豊かさで次世代が夢を描ける社会を創るをMissonに、企業業と働く人々へのコンサルティングで持続的な変革を支援し新しい価値を創造ことをvisionに掲げ活動しております。お客様には①「変化を見抜き価値を創る」コンサルティング、②「学びで育む次世代の成長」を支える研修講、③「知恵を届け未来を動かす」執筆サービスを価値としてお届けしております。