「うちのチームは雰囲気いいんですけど、なぜか成果が出なくて……」
「部下が会議で意見を言わない。どう声をかければいいかわからない」
「チャレンジを促しているのに、みんな萎縮してしまう」
こうした悩みを抱えるリーダーは、決して少なくありません。職場の雰囲気や人間関係は良好に見える。それでも、チームとして結果が伴わない。その背景には、「心理的安全性」と「ワークエンゲージメント」のバランスが崩れているという共通した構造が潜んでいます。
本記事では、「職場のコミュニケーションをどう変えるか」というテーマで研修支援を依頼された事例をもとに、真因の特定から実行した施策、そして職場に生まれた変化までを整理してご紹介します。
相談を寄せてきたのは、複数の部門を抱える中堅規模の企業の人材育成担当者でした。組織的な課題として挙がっていたのは、「会議で意見が出ない」「若手が受け身になっている」「チームとしての一体感がない」といった声です。
背景・相談のきっかけ
一方で、職場の雰囲気が険悪というわけではない。むしろ、メンバー同士の関係は良好で、表面上は穏やかな環境が整っていました。「雰囲気は悪くないのに、なぜ成果につながらないのか」「心理的安全性を高めようとしているが、何から手をつければいいかわからない」――この二つの問いが、相談の出発点でした。
当初見えていた課題
初期のヒアリングを通じて、表面的な課題は次のように整理されました。
- 会議の形骸化。発言するのはいつも同じメンバーで、若手や一部のメンバーは沈黙している。参加しているが、実質的に機能していない。
- チャレンジが生まれない。リーダーが「もっと挑戦してほしい」と伝えても、メンバー側は萎縮するか、受け流してしまう。
- 仲良しにとどまっている。人間関係は良好だが、失敗しても「ドンマイ」で終わり、課題の本質に向き合えていない。
- 世代間のコミュニケーションギャップ。昭和・平成・令和世代が混在する職場で、それぞれの「当たり前」が噛み合わず、意思疎通に負荷がかかっている。
これらを見ると、「研修でコミュニケーション技法を教える」「ファシリテーションを改善する」といった施策が自然に浮かびます。しかし、個別スキルの改善だけでは根本的な変化は起きないと判断しました。
真因の特定
掘り下げていくと、より本質的な構造が見えてきました。それは、「心理的安全性」と「ワークエンゲージメント」のどちらかが欠けている、あるいは両方が低い状態が、職場ごとに異なる形で現れているということです。
心理的安全性とは「誰もが気兼ねなく意見を述べられる文化」のこと。「仲良くすること」や「快適な職場にすること」とは根本的に異なります。建設的な議論ができる土台であり、タブーなく課題に向き合える状態を指します。
この視点で職場の状態を整理すると、4つのゾーンに分類できます。
- A. ヤル気充実ゾーン(理想):安全性もエンゲージメントも高い。最も成果が出やすい状態。
- B. 不完全燃焼ゾーン:エンゲージメントは高いが、安全性が低い。チャレンジしたいが萎縮してしまう。
- C. ぬるま湯ゾーン:安全性は高いが、エンゲージメントが低い。仲良しだが成果が出ない。
- D. 無関心ゾーン:安全性もエンゲージメントも低い。言われたことはやるが、それ以上を求めない。
今回の企業の状態は、部門によって「C」と「B」の混在でした。真因は、リーダーとメンバー双方が「自職場がどの状態にあるか」を理解していないことでした。

支援内容
真因の特定を踏まえ、次の3つのステップで支援を設計しました。
まず、概念の整理と共通言語の構築です。心理的安全性・ワークエンゲージメント・コミュニケーションの三者がどのように連動しているかを、図解とケーススタディを用いて整理しました。参加者が「理論を理解する」だけでなく、「自分の職場に置き換えて考えられる」状態になることを重視しました。
次に、職場診断と課題の可視化です。4象限のフレームを使い、自職場がどのゾーンにあるかをリーダーとメンバーがそれぞれ自己診断する機会を設けました。「Bゾーンにいるのか」「Cゾーンにいるのか」が言語化されると、改善の方向性が自然に明確になります。
さらに、リーダーとメンバー別の行動変容支援です。リーダー向けには「土台作りのリード・信頼と尊重の促進・ミスを学びにする姿勢」を、メンバー向けには「積極的な参加・フィードバックの実践・フォロワーシップの発揮」を、チェックリスト形式で整理しました。双方向のコミュニケーション設計として位置づけることで、「リーダーだけが変わればいい」という誤解を解くことにもつながりました。

実施後の変化
研修後のアンケートにおいて、参加者の大多数が「自職場の課題が具体化できた」と回答しました。また、リーダー層からは「部下との1on1の内容が変わった」という声が複数寄せられました。
定性的な変化として、より大きかったのは「問題の見立て方が変わった」ことです。これまで「うちのメンバーはやる気がない」と捉えていたリーダーが、「自分の関わり方がBゾーンの状態を生み出していたかもしれない」と気づくケースが出てきました。
「心理的安全性を高めること」と「成果を求めること」は矛盾しない。この認識が現場のリーダーに根付いたことが、最大の変化でした。
この事例から得られる示唆
1. 「雰囲気が良い」は「心理的安全性が高い」ではない。
仲が良く、表面的に穏やかな職場であっても、建設的な意見が出ない・課題に向き合えないのであれば、それはぬるま湯状態です。心理的安全性の本質は、タブーなく議論できることにあります。
2. リーダーとメンバー、双方の役割を明確にする必要がある。
心理的安全性の醸成はリーダーの責任ですが、ワークエンゲージメントを高めるにはメンバー自身のフォロワーシップも不可欠です。片方だけに働きかけても、構造的な変化は起きません。
3. 「自職場の状態」を言語化することが変化の出発点になる。
4象限のようなフレームを使い、「自分たちはどこにいるか」を可視化するだけで、改善の方向性が自然に明確になります。問題を漠然と捉えていた状態から、具体的な行動選択へと移行できるのです。

まとめ
「仲良しなのに成果が出ない」「チャレンジを促しても動かない」――この二つの悩みは、一見異なるように見えて、心理的安全性とワークエンゲージメントのバランス問題という共通の構造を持っています。
表面的なスキル改善や制度変更に先立ち、「自職場がどのゾーンにいるか」を正確に把握することが、最初の一手です。そして、リーダーとメンバー双方が役割を理解し、双方向のコミュニケーションを設計することで、初めてチームは「ヤル気充実ゾーン」へと近づけます。
組織のコミュニケーション改善や研修設計でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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辻村裕寛(つじむらやすひろ)代表取締役兼CEO
IT系ベンチャー企業、SIer、コンサルティングファームを経て独立起業。現在は、働きがいと豊かさで次世代が夢を描ける社会を創るをMissionに、企業と働く人々へのコンサルティングを通じて持続的な変革を支援しています。お客様には
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