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「自分の値段を決める日──価格設定という、最も怖い自己評価」

前回の振り返りと、次の壁

前回、私はSNS発信の「恥ずかしさ」と「虚無感」について正直にお話ししました。

誰にも届いていないかもしれない投稿を、それでも続けること。その地道な積み重ねが、少しずつ「見てもらえる」状態をつくっていく。あの体験は、今でも私の発信の根っこにあります。

しかし、発信が軌道に乗り始めると、また別の壁が現れました。

「ご相談したいのですが」という連絡が、ぽつぽつ来るようになったのです。

ありがたい。嬉しい。そう思った瞬間、次の言葉が怖くなりました。

「で、費用はどのくらいになりますか?」

他人の値段は決められるのに、自分の値段が決められない

コンサルタントとして会社員だった頃、私は価格設定の仕事を何度もしてきました。

クライアントの商品・サービスの原価を分解し、競合の価格帯を調査し、ターゲット顧客が「払える・払いたい」と感じる価格を導き出す。そのプロセスを、私はプロとして設計してきたはずでした。

なのに、自分のサービス単価が、まるで決められないのです。

「コンサルティング、1時間あたりいくらにしよう」

Excelを開いて、セルに数字を打ち込んでみます。3万円、と入力してみる。「高すぎるか?」と思って消す。1万円と入力してみる。「これでは食べていけない」と思って消す。2万円に落ち着かせようとする。「半端な数字で、かえって信頼を失うのでは」と悩む。

1時間、何も決まりませんでした。翌日また同じことをやって、また同じ堂々巡りに陥りました。この繰り返しが、3週間続きました。

会社員時代には、自分がいくら稼いでいるかは、あまり実感がありませんでした。会社という仕組みが、給与という形で「あなたの価値はこれです」と答えを出してくれていた。

しかし独立した今、その答えを出すのは自分自身です。

「自分には、本当にそれだけの価値があるのか?」

価格を決めるという行為は、突き詰めると「自己評価を数字に変える行為」でした。それが、これほど怖いとは思っていませんでした。

「安くすれば仕事が来る」という罠

迷った末に、私は安い方向で動くことにしました。

「まず実績を作ることが先決だ。単価は後で上げればいい。」

そう自分に言い聞かせて、相場より明らかに低い金額で仕事を受け始めました。最初のうちは、仕事が来ることに安堵しました。「選んでもらえた」という感覚が、自己肯定感を少し回復させてくれた面もありました。

しかし、数ヶ月後、私は気づき始めます。安く受けた仕事ほど、消耗が激しい。

これは、単純にお金の問題ではありませんでした。安い単価で受けると、なぜか無意識のうちに「これだけの金額なのだから、これくらいの範囲でいい」という線引きが難しくなります。追加の作業依頼が来る。想定外の対応が発生する。それでも「安くしているんだから、断りにくい」という心理が働く。

気づいたら、単価が低いのに、稼働量だけが膨らんでいました。

さらに怖かったのは、「安い価格で頼んでくれるクライアント」が増え始めたことです。紹介で来る方の前提金額が、私の設定した低い価格になっていました。「辻村さんは、それくらいでやってくれる人」という認識が、静かに広がっていたのです。

値上げは、拒絶の恐怖との戦いだった

あるとき、長くお付き合いのあった中小企業の方から、新しい案件の打診をいただきました。

私はその仕事の内容を見て、以前より単価を上げなければ応じられないと判断しました。

メールの返信を書きながら、指が止まりました。

「値上げを伝えたら、断られるんじゃないか」
「今まで安くやってきたのに、急に上げるのは非常識と思われないか」
「この仕事を失ったら、次の仕事はどこから来るんだ」

30分かけて、数百文字の返信を書きました。単価の変更を、できるだけ丁寧に、でも正直に伝える文面を。

送信ボタンを押した後、スマートフォンを裏返しにして、画面を見ないようにしました。

返信が来たのは、翌朝でした。「わかりました。その条件で進めましょう」

それだけでした。拍子抜けするほど、あっさりした返事でした。私が3週間悩んで、30分かけて書いた文面への返答が、30文字以内だったのです。

その日、私はひとつ学びました。価格交渉で失う仕事があるとしたら、それは「その価格でなければ成立しない関係」だったということ。価格を正直に提示して離れていくクライアントは、最初からすれ違っていたのです。

「値段」は、自分への敬意でもある

その後、私は価格設定についての考え方を少しずつ変えていきました。

まず、自分が「何に対してお金をいただくのか」を、改めて言語化しました。

時間に対してではない。作業量に対してでもない。

私がこれまでの30年間で積み上げてきた「経験・判断力・失敗から学んだ感覚」に対して、対価をいただく。

そう整理したとき、単価を上げることへの心理的なブロックが、少しほどけた気がしました。

今でも、新しい仕事の見積もりを出すたびに、少し緊張します。「高すぎないか」という不安は、完全には消えていません。

でも、必要以上に下げることも、しなくなりました。

安さで選ばれる仕事を積み重ねることは、自分の市場評価をじわじわと下げていく行為でもあります。そして、それは「自分の過去に対する敬意を、自分で踏みにじること」でもあると、今は思っています。

会社員時代に積み上げたもの。苦しいプロジェクトで磨かれたもの。それには、確かに価値があるはずです。その価値を、自分自身が信じることが、価格設定の出発点なのだと気づいたのです。

【読者の皆様へ:今回の問い】

もしあなたが今、独立や副業を考えているなら、一つ自問してみてください。

「あなた自身のサービスや知識に、あなたは今、いくらという値段をつけられますか?」

数字が出てこないとしたら、それはスキルの問題ではなく、自己評価の問題かもしれません。

価格は、能力の証明ではなく、自分への宣言です。

もしよければ、コメント欄FacebookInstagram(#52歳のリアル)で、あなたの考えを聞かせてください。

次回予告

値段を決め、少しずつ仕事の形が見えてきた頃、私は「起業1年目の終わり」を迎えます。

売上はいくらだったのか。費用はどれだけかかったのか。そして、独立を選んで、後悔はなかったのか。

次回は【第11回】「1年目の決算──数字と、正直な気持ち」をお届けします。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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辻村裕寛(つじむらやすひろ)代表取締役兼CEO

IT系ベンチャー企業、SIer、コンサルティングファームを経て独立起業。現在は、働きがいと豊かさで次世代が夢を描ける社会を創るをMissionに、企業と働く人々へのコンサルティングを通じて持続的な変革を支援しています。お客様には
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