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目次
企業プロファイル
中小製造業(従業員51〜300名)/組織の拡大期/理念が現場の判断基準として使われていない
従業員が百名規模に近づいた製造業の経営者から、こうした相談を受けることがあります。「理念はあるが、現場が迷ったときの拠り所になっていない」。
創業期に掲げた言葉は、額に入って壁にある。けれど、現場のリーダーが判断に迷ったとき、その言葉が持ち出されることはない。そういう状態です。
社長が全員の顔を見て判断できた規模を、組織が越えつつある。言葉を作り直す必要が出てくるのは、たいていこの局面です。
ところが作り直しを決めると、最初の会議で「どんな言葉がいいか」の議論が始まりがちです。
しかし、言葉は最後に決めます。
本稿では、当社が支援したMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)再構築の事例から、その進め方を紹介します。扱うのは成果ではなく、自社で再現できる手順と判断基準です。
言葉から入ると、決め手が「誰が気に入ったか」になる
文言案を最初に並べると、議論は案の良し悪しになります。決定の根拠が「誰が気に入ったか」に落ち、後から異論が出たときに戻る場所がありません。
この事例では、検討を4つの段階に分け、文言を最後に置きました。
| 段階 | 問い | この段階の約束 |
|---|---|---|
| STEP1 事実を集める | 何が既にあるか | 文言はまだ出さない |
| STEP2 論点を揃える | 何が課題か | 言葉ではなく論点を揃える |
| STEP3 軸を決める | 背骨をどこに置くか | 使わない言葉も決める |
| STEP4 文言を詰める | どう言うか | 語尾一つまで詰める |

この4段階は、経営者への報告資料の骨格にもそのまま使いました。各ページに「いまどの段階の報告か」を示します。
そうすると、新しいスローガンを作ったのではなく、現場に既にある行動を言語化したことが、資料の構造で伝わります。
4つの段階で何をしたか
STEP1 事実を集める ─ 文言はまだ出さない
経営層から現場のリーダーまで、階層と部門を横断して個別にヒアリングしました。人選は人数ではなく「立場の散らばり」で決めます。
経営・営業・品質・製造・総務・現場リーダーのように、同じ立場が重ならないことを優先します。
結果は、誰が・何を・どの文脈で語ったかの一覧に落とします。全員が口にする特徴は、その会社の実際の行動様式です。ここがミッションの素材になります。
もう一つ、強みと、その裏返しの影を対で拾います。強みには必ず代償(負荷・採算・優先順位の乱れ)があります。影を拾わないと、言葉が現場の感覚から浮きます。
STEP2 論点を揃える ─ 初回は課題だけを話す
第1回の検討会では、文言を出しませんでした。課題の仮説を複数並べ、どれが自社の実感に合うかを選んでもらいました。
この回の出口は、合意した方向性の数点です。決まるのは方向性であって、言葉ではありません。
STEP3 軸を決める ─ 使わない言葉も同時に
この進め方の要はここです。文言の良し悪しではなく、「MVVの背骨をどこに置くか」を3つの軸から選んでもらいました。
| 軸 | 書き方 | 対応する要素 |
|---|---|---|
| 原点深化型 | 創業の原点を深めて言い直す | ミッション |
| 組織進化型 | 組織がどう変わるかで語る | ビジョン |
| 判断基準型 | 現場が迷ったときの基準として書く | バリュー |
軸と要素を1対1で対応させると、後の文言が「どの軸から出たか」を常に参照できます。
同じ段階で、「使わない言葉」も決めました。たとえば、対象層に通じない抽象語や、聞いても響かない精神論です。
除外する語ごとに、判断と理由を記録します。これを残さないと、後の工程で除外したはずの言葉が戻ってきます。
STEP4 文言を詰める ─ 分節ごとに由来を示す
白紙から案を募ることはしませんでした。推奨案を軸に、差し替え候補と比べながら、語尾一つまで詰めました。
各文言は、分節ごとに由来を示します。この節は誰の発言、どの事実から来たのか。STEP1の一覧がここで効きます。
判断の基準は要素ごとに違います。ビジョンは対外的な見え方と拡張性、バリューは現場での使われ方で判断しました。
了承の後に「現場に響かない」と言われたら
経営者がいったん了承した後に、差し戻しが入ることがあります。
ここで案を作り直す前に、発言を要件に翻訳します。
差し戻しを要件に翻訳する4つの手順
- 発言を要件のリストにする。出所の発言を併記する
- 要件どうしのトレードオフを名指しする。たとえば「現場に近い言葉」と「理念としての格」は、一本の軸の両端になりやすい
- その軸の上に複数の案を並べる。各案が効く要件と、弱い要件を明示する
- 採否は要件のリストで判定する。
好みの議論に戻さないための装置です。案の数を増やすことより、何で決めるかを先に揃えることが効きます。
なお、「言葉は現場まで届かせる」と「策定は経営層と中間層で回す」は矛盾しません。策定に関わる人の範囲と、言葉を届ける範囲は、分けて設計します。
掲げただけでは、判断基準にならない
MVVは掲げただけでは行動が変わりません。
人事評価と研修に接続して、はじめて現場の判断基準として働きます。
評価に使うなら、バリューは行動が観察できる粒度で書きます。
評価表の目標設定欄に、そのまま書き写せるかが目安です。
接続を設計する前に、現行の評価表を確認してください。
会社が独自に、評価項目へバリューを取り入れ始めていることがあります。
その場合は、既にある仕組みを前提に接続を組みます。知らずに案を出すと、仕組みが二重になります。
作り直す前に確かめたい5つの問い
自社の理念やMVVに当てはめてみてください。いずれも、いま手元にある文書で答えられます。
チェックリスト:5つの問い
- 作り直しの初回の会議で、文言案を出していないか
- ヒアリングの対象は、立場が重ならないように選んだか
- 「使わない言葉」を、理由とともに記録しているか
- 各文言の分節ごとに、誰の発言・どの事実から来たかを示せるか
- バリューは、評価表の目標設定欄に書き写せる粒度か

明日できる一手
明日できる一手を1つ挙げます。いまの理念やバリューの各文について、「この言葉は、誰のどんな行動から来たか」を1行ずつ書き出してください。
書けない文が、作り直しの候補です。書けた文は捨てずに、言い直しの素材として残します。作り直しは、既存の言葉の再解釈であって、刷新ではありません。
無料・オンライン・30分
30分の課題診断で、次の3つをお持ち帰りいただけます
- 自社の理念・MVVが、4つの段階のどこで止まっているかの見立て
- 作り直すべきか、再解釈で足りるかの判断材料
- 上記5つの問いへの自社の答えを書き出した1枚
資料の準備は不要です。現行の理念や評価表があれば画面共有で拝見しますが、なくても現状をうかがえば見立てはできます。作り直すかどうか決めていない段階でも構いません。
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