「ドラマが足りない」と父からダメ出し
先日公開した「我が家の半額おじさん」のコラム。思いがけず本人が読んだようで、わざわざ連絡が来た。
「半額祭りのドラマの本質が、まったく描かれていない」
まさかのダメ出しである。
たしかに、あれは父の“半額愛”を紹介したに過ぎなかった。しかし、父に言わせれば、それはまだ序章に過ぎない。本当の戦いは、半額シールが貼られるその瞬間、スーパーの現場で繰り広げられているのだという。
父によれば、半額祭りを制するには、シールが貼られる時間帯を知っているだけでは不十分とのこと。勝負の舞台は現場にある。つまり、スーパーの売り場には、「半額おじさん」のような「半額ハンター」たちが潜み、静かに、だが熾烈な戦いを繰り広げているというのだ。
必要なのは、洞察力と反射神経
勝敗の鍵を握るのは、どの商品からシールが貼られるのかを読み取る洞察力と、貼られた瞬間に手を伸ばす反射神経がものを言う。父曰く、羞恥心をなんとか保ちながらも、皆が店員さんの手元を凝視している現場には、独特の緊張感があるらしい。もちろんそこにはマナーは存在し、店員さんの後をピクミンのように付きまとうのは論外とのことだ。
だが、シールが貼られた瞬間、売り場は一変する。まるで鳥たちが餌に群がるかのように、皆が狙っていた品へ一斉に手を伸ばす。肉などの人気商品は、一瞬で消えるので、躊躇の隙を見せてはいけないとのことだ。
「貼ってください」作戦という裏奥義
ちなみに、半額ハンターの中には上級者もいるようで、シールが貼られる前の商品を先に手に取り、「これ、貼っていただけますか?」と店員に声をかける大胆な作戦に出る者もいる。ルール違反とまではいえないが、実行に移せる胆力を持つ者は少ない。父はこの手法を“裏奥義”と呼んでいる。
しかし、この半額祭り、決して殺伐としているばかりではない。ライバルたちの間には、妙な連帯感が漂っているという。全員が同じ目的を持ち、同じ時間、同じ熱量でその瞬間に臨んでいる。そのせいか、ときに譲り合いの場面が生まれることもある。
「あ、それ、どうぞ」
そう声をかけられたとき、まるで見知らぬ戦友に背中を預けられたような、ほっとする気持ちになるのだそうだ。
面接で語りたい、父の志望動機
今のところ、父は参加者としてこの「半額祭り」を楽しんでいるが、いつかは店員さん──つまり“開催者”として関わってみたいと語る。多くの半額ハンターに見つめられながら、シールを貼っていく。そんな状況に、ある種の優越感を感じてみたいらしい。
今はまだ会社勤めをしている父だが、「いつかは半額祭りの開催者として、スーパーに立つ日が来るかもしれない」と真剣に語る。そしてその時には、面接でこう言いたいのだそうだ。
「半額シールを手にする人々の笑顔を応援したいんです」
そして、私はますます理解できなくなった
これが父が語る“半額ドラマ”の真髄。そして、話を聞いた私はというと──ますますその情熱の深さが理解できなくなってしまったのだった。